「機動戦士ガンダム」はジャンル破壊者だった §
若い人には理解できないことでしょうが。
機動戦士ガンダムという作品は作られた時点では王道ではありませんでした。それはジャンルの基準を指し示すものではなく、ジャンルの常識を破壊する者として出現したのです。
たとえば以下のような特徴は、マジンガーZ等が打ち立てたジャンル常識の破壊を行ったと言えます。
- 敵が1体で毎回違う敵が出てくる→敵が量産される兵器であり、複数出てきたり、同じ敵が繰り返し出てきたりする
- 武器や技を使うときに名前を叫ぶ→武器の名前を叫ばない
- 主人公ロボが戦争の流れを決定的に変える→ガンダム1機で戦争の流れは変わらない
この「常識破壊」は、アニメを見るファン層の大幅な拡大という効能をもたらしたと考えられます。特殊な常識(お約束)を解体し、より一般的な常識によって作品を組み替えるということは、作品世界に入ってくることができる層をより厚くする効能があり得ます。
「ミラクル☆トレイン〜大江戸線へようこそ〜」もジャンル破壊者だった §
最近、意欲的なジャンル破壊者と言える作品に出会いました。「ミラクル☆トレイン〜大江戸線へようこそ〜」です。私が大好きだった「わがまま☆フェアリー ミルモでポン!」のカサヰケンイチ監督作品であり、そう思って見ると確かにそれも分かります。
この作品の特に秀逸な点は、以下の2つの点でパターン破壊を行っているところです。
- 擬人化美少年ジャンルでありながら、腐女子向けサービスが希薄 (ヤオイパターンの破壊)
- 鉄道を舞台にしているが、車両や線路よりも駅や駅周辺地域についてのネタが深い (「鉄」パターンの破壊)
つまり、パターン破壊によって閉鎖的なマニアの世界を指向することなく、作品そのものが男女年齢を問わず誰でも楽しめる普遍性を持ち得ているのではないか、と思うわけです。たとえば、車内でひたすらもんじゃを作り続ける月島や、忠臣蔵が大好きな両国(吉良邸跡が両国駅近くにある)などは、話題そのものが「特定の閉鎖的な集団のお約束」に依存しない普遍性のある話題です。ヤオイのヤの字も知らないおばあちゃんが見ても分かる話題でしょう。(地域性が強すぎるので、別地域在住だと分からない可能性もありますが)
更に言えば、悩みを持った女性を救うというモチーフそのものはシティハンター等とも共通するものであり、一種の男のヒロイズムを刺激する内容でもあります。だから、まさに「男性視聴者にも門戸が開かれた作品」だとも言えます。
つまり、ガンダムがロボットアニメという枠組みを堅持しながらジャンル破壊を行ったのと同じように、「ミラクル☆トレイン〜大江戸線へようこそ〜」も腐女子向けアニメという枠組みを堅持しながらジャンル破壊を行っているのではないか、と思うわけです。